大森静佳 著
この世の息 : 歌人・河野裕子論 (角川文化振興財団): 2020|書誌詳細|国立国会図書館サーチ
こちらの記事で書いたとおり、私はたぶん河野裕子さんの歌が好き。この本は、河野さんの歌集を出版順にさらってくれて、とても参考になった。
著者の大森さん、短歌のアンソロジーで見て素敵な歌を詠まれているなと思ったのと*1、あとこの間カクヨムさんでやってた短歌大会の審査員さんだった気がする*2。
あ、そうですね。
歌集の中の歌だけではなく、河野さんの評論や座談会の記録、またその時代の他の歌人の歌など丁寧に資料が引いてある。読みやすい。
前に、「一人の歌人の歌を、作者が解説しながら読んでいく本は得意じゃない」と書いたのだけれども、この本は気持ちよく読めた。これは本のつくりの問題ではなくて、作者と気が合うかどうかみたいな問題だったのかもしれない。作者と気が合わない本を読み続けるのは、以前よりか読めるようにはなったものの、すべてとはいかない。口に入れても、身体が咀嚼を拒否する場合、それは食べられない。*3
小説ならまだいいけど、評論とかだと、作者がダイレクトに来てしまうからなあ。
河野裕子さんの歌は、人生のステージによって(?)作風が変わる(が、生と死とか、身体感覚の感じは一貫している、ようだ)というのが印象的だった。作風、変えてもええやんな。
ところでこの本は、あとがきによれば、大森さんが「いつか河野裕子の歌について書きたい」と言った時に伊藤一彦さんが「『梁』で書いたらいいよ」と誘ってくれたのでできた連載から成っている、らしい。伊藤一彦さんやっぱすごいな*4。
*1:このブログにはメモされていなかったが……
*2:これ、応募したかったのだが、結局は出さなかった。審査中の歌が衆人の目に触れることや、その閲覧数なんかが数として出てしまうこと、コメントとかいただくとそれも見えてしまうこと、などがちとしんどかった。SNS疲れに通ずるものがある。あと、出すなら連作20首の部門にして、連作の練習にしようかなと思ったけれども、そんなに編み直す時間がなかった+連作で出したい他の大会があったので、優先度が落ちた。
*3:読書と飲食を近しいものと思っている。
*4:何度かお話を伺う機会があった。また、本や何かの原稿中で言及されているのを見ることもある。どうも伊藤先生は、「伊藤先生がおっしゃるならやらせていただきましょう」、という気合いのようなもの、を他人に充填するのが本当にお上手だと思う。充填するというか、その人の中に勝手に満ちる感じがある。こういうのは多分、やろうと思ってできるものではないので、やはりすごい。