単品と単品

ハンバーガーとチーズバーガーを食べたいときもある

読んだ:すべての愛しい幽霊たち

アリソン・マクラウド 著、髙山祥子 訳(2019)

すべての愛しい幽霊たち (東京創元社): 2019|書誌詳細|国立国会図書館サーチ

 

これは今年最も読んでよかった小説になるだろう。

原題は『ALL THE BELOVED GHOSTS』。収録作は以下。

  • 雪解け
  • ソロで、アカペラで
  • デニス・ノーブルの心臓
  • シルヴィアはあの世でピンクの服を着る
  • 大切なものがある
  • オシレイト・ワイルドリー
  • ダイアナを夢見て:十二フレーム
  • ラディカル・フィッシュを褒めたたえて
  • チェーホフを思いながら
  • 市民による逮捕の方法
  • わたしたちはメソジスト教徒だ
  • すべての愛しい幽霊たち

 

この本を手に取ったのは完全に偶然で、図書館で海外文学の棚をうろうろしていた時に背表紙のタイトルが目に入って、あら! これだ! って借りたんだった。ちょうど2021秋のにっかり青江単騎出陣の配信を見た後で、幽霊、が気になったのかもしれない。『すべての愛しい幽霊たち』。幽霊を、愛しい、という感性がよいな、と思う。

 

内容のことを記録しておきたいのだけれど、そして読み返してもみたのだけれど、全然言葉にならないな。言葉にすると私の中から出ていってしまうから、それがいやなのかもしれない。もったいないよう。

私もこういう小説が書きたい。理想の形を目の前に見せてもらったみたい。透明で、人々が"生きて"いて、何が起きているか完全に理解できたわけではなくても美しい景色や短い感情の描写に胸がつまって、徐々に心の焦点が出来事に合っていって、読み終わって少しの後、「ああ、そういうことだったの!」と思えるような。

こういう、と、引用できたらよかったのだけれど(そして候補はいくつかあるのだけれど)、小説全体から引き剥がしてしまってはその魅力は目減りしてしまうことだろう。悩ましい(そしてやめる)。

 

「雪解け」1本目。いきなりとてもよかった。改行が効いている。くらくらする。

「シルヴィアはあの世でピンクの服を着る」かなり好きな設定。

「大切なものがある」はちゃめちゃに好き……最後暴力的なめでたさに目がくらんで終わるところも……

「ダイアナを夢見て:十二フレーム」某子様のことがあるので謎に感情移入してしまった。同世代なんだよね、某子様。幸せになってほしい。

「わたしたちはメソジスト教徒だ」す……好きだ……。『あの日、トビーは光った。』(p228)がとてもいい。

 

これは原文で読みたいなあと思っている。後で本をまとめて買う機会があったらきっと訳版と一緒に買うだろう。これは本棚にあってほしい本。

いいものに出会えて幸せ。

 

読んだ:ウチら棺桶まで永遠のランウェイ

kemio 著(2019)

https://iss.ndl.go.jp/books/R100000002-I029619564-00

 

あげみざわの人って実在するんだ!?(あげみざわの実用例をまだ見たことがないが……)

価値観が年下の身内にとても似ている気がする。世代ってやつなのかなあ。

ものすごい速さで読み終わった。きらめく星のなったんさんの本を思い出した(短文が大小のフォントで散りばめられているページとか)。あと、この記事を。

blog.tinect.jp

kemioさんやなったんさんの本を読むのに頭を使う必要がないと言いたいわけではない、念のため。

 

読んだ:文体の舵をとれ : ル=グウィンの小説教室

アーシュラ・K・ル=グウィン
大久保ゆう 訳

文体の舵をとれ : ル=グウィンの小説教室 (フィルムアート社): 2021|書誌詳細|国立国会図書館サーチ

 

句会でお世話になっている方がお勧めされていて、面白そうと思って読みました。面白かった~! 私は自分の文体に振り回されている(そしてその遠心力を愛している)けど、それが外からどう見える(読まれる)のか、に意識を向けるのはいいことな気がする。

練習問題を全然やっていないので、やってみたいな。この本は手元に置いていていいものと思われる。

第7章 視点(POV)と語りの声、第9章 直接言わない限り──事物が物語る、第10章 詰め込みと跳躍、あたりが特にへえと思いました。私はPOVがぶれがち、特に三人称をやるときに単視点と神の視点が混ざる。自覚したからといってどうなるのかはわからんが……。

あと、今書いている話がもともと3万字になったらいいな~と思っていたけど3万行かずに終わりそうでなんとはなしヘコんでいたところだったので、以下の部分は心に響いた。募集した質問にル=グウィンが回答するくだり。

短篇から長篇へとどう書き換えればいいのかと悩む質問者が「この小舟をクルーズ船に変えるにはどうすればいいでしょうか?」と訊ねると、ル=グウィンは「クルーズ船のことなんて忘れなさい。むしろ、自分がどこに行こうとしていて、どうやってたどり着くつもりなのかを、気にするのです──あとたぶん、そうしたい理由についても」と返答する(4)。(p247)

出典URLが出ていたので、そっちも引用する(下線は私が引いたもの)。

Kim: I wrote a short story, and won an award (3rd place, but still an award) in a short story contest. I feel like the story could be the start of a novel. How do I take this seed and make it grow? Or, to use the sailing metaphor, how do I turn this dinghy into a cruise ship?

Ursula: Well, Lt Bligh sailed an overloaded, 23-foot, open ship’s boat 4,000 miles. He knew how to navigate. And he just kept going. I’d say, forget the cruise ship. But do have in mind where you’re going, and how you intend to get there — and maybe why you want to.

Bon voyage!

 

bookviewcafe.com

 

 

私はあの二振りがいったい何で、永遠の別れとは何で、それらに何の意味があるのかを知りたくて(きっと何か意味があるはずなんだと思っているから)、回想を読み解くことでそれに近づきたいんだ……。

良い本を読みました。ありがとうございました!

読んだ:からくりからくさ

梨木香歩

からくりからくさ (新潮社): 2002|書誌詳細|国立国会図書館サーチ

句会でよく話にあがるので、読んでみた。梨木さんのことたぶん好きなのに読んだことがなかった。意外。でも読んでみてもやっぱり初見だったんだな。

一歩引いたみたいに淡々と進む描写が新鮮。草木の理解の深さよ。

これは私の本棚にあってほしい本。

読んだ:青子の宝石事件簿

和田はつ子 著(2013、角川春樹事務所)

 

青子の宝石事件簿 (角川春樹事務所): 2013|書誌詳細|国立国会図書館サーチ

 

三人称で小説を書くのに手間取っていた。短い話ならやったことはある、三人称。だけど、プロットを書いてから取り掛かるやるような、2万文字を超えるような話で、三人称で書ききることはまだやったことがなかった。

どうしようと思って、三人称でも面白い小説、を読むことにした。*1

なんとなく、歴史小説とかは、三人称で面白いのかなと思った。新選組血風録とかみたいに(?)一文がシンプルで、描写が簡潔で、私を引き込まれる面白さがある。話の筋や盛り上がりのシーンが明快で、そこに面白さがあるから、文章を飾ると流れの妨げになるのだろう。多分。

私が書いている話で話の筋がそもそも面白いのかは謎だが、武器として、「簡明で力強い文章」を持っておけたらいいなあ、と思った。それで、これまで全然手に取ってこなかった、歴史小説の棚に行ってみた。

和田はつ子さん、というお名前を、すっごい長いシリーズの背表紙によく見ていたことがある。今回はそこから、とっつきやすそうな本を読みました。宝石、好きだし。

短編4本。おっっっもしろかった……。文体は真似できる感じじゃないけど*2、登場人物がいきいきしていて、いい感じにデフォルメというかアイコン化されている。一本の話の中に、宝石と、そして何か既存の物語(伝承や、宮沢賢治など)がきちんと織り込まれていて、知識の深さ、組み合わせの妙を思う。謎解きとしても面白いし。

すごいな~。

あと、この話は三人称ではなく一人称だった。適当に手に取っている……。

 

読み切ってないやつ3冊も記録しておく。

剣客商売池波正太郎著 このお名前もめちゃ見かけるけど読んだことなかった。三人称です。文体がざくざくしている。あと性的な話題が多い(気がする)

はやぶさ新八御用帳 1 大奥の恋人』平岩弓枝 このお名前もよく見かけるけど読んだことがなかった。三人称。上記のと合わせて、ここまで地の文を省いてもいいんだなあと思う。

『南国太平記 下』直木三十五著 また下巻を……!! 直木さんの本初めて読んだ。ほんとに冒頭しか読めていないんだけど、面白いよ……面白いじゃん……。めちゃ長いので生きているうちに読み切るかわかんないけど、非常によい。うまく言えないけど。

*1:昔、短編集を作ろうと思った時に、「短編って何……?」となって短編集を読んだこともあった。

*2:ノローグの上下を――で囲って示すやり方とか。ちょっとマンガっぽいというか、新井素子さん感を感じる。新井素子さんがやる手法なのかは知らないけれど。そうやって心中の描写を示せると、地の文が膨張して話の流れが妨げられるのを防げて、便利っぽい。

部分的に読んだ:誰もが書かなかった日本の戦争 : 日清・日露・太平洋戦争を知らない子供と大人のために

田原総一朗 著(2011)

 

誰もが書かなかった日本の戦争 : 日清・日露・太平洋戦争を知らない子供と大人のために (ポプラ社): 2011|書誌詳細|国立国会図書館サーチ

 

さすがにこういう本を一冊くらい読んでおこうと思ったんだけど、途中までで止まってしまった。リベンジしたい……

部分的に読んだ:九マイルは遠すぎる

ハリイ・ケメルマン著 ; 永井淳,深町真理子訳(1976)

 

九マイルは遠すぎる (早川書房): 1976|書誌詳細|国立国会図書館サーチ

 

タイトルで検索したら、

towering-horizon.com

氷菓か!! これアニメで見たのを覚えている。安楽椅子探偵

 

「序文」にある、着想から14年かけて書いた(その間に何度かチャレンジしてうまくいかず、書けた時はすっと書けた)みたいな話に非常に励まされている。

部分的に読んだ:光あるうち光の中を歩め

レフ・ニコラエヴィチ・トルストイ/著者
原 久一郎/訳者

 

(新潮文庫)光あるうち光の中を歩め : 新潮文庫 ト-2-8 (新潮社): 1987-00|書誌詳細|国立国会図書館サーチ

 

タイムラインでロシア文学がよく見られたので……そして面白いと言われていたので……短いやつを取ってみた。台詞がめちゃめちゃ長い。台詞ですべてを説明していくぞみたいなことしたくなっても怖くないな。

晩年のトルストイキリスト教に深く信心していた(?)の初めて知った。文アルの転生文豪を見ると「知を知らない松井江……」と思いがち。

部分的に読んだ:謝ったって許さない

ソフィー・リトルフィールド 著
嵯峨静江 訳(2010)

 

謝ったって許さない (早川書房): 2010|書誌詳細|国立国会図書館サーチ

 

発砲したりジープを乗り回したりするの、勢いがアメリカン。

見た:数学クラスタが集まって本気で大喜利してみた

いっくん 著,店長 構成協力(2021)

 

数学クラスタが集まって本気で大喜利してみた (KADOKAWA): 2021|書誌詳細|国立国会図書館サーチ

 

「エレガントだ」という感覚はわかるが、「病的だ」「行儀がいい」は初めて聞いた。面白い概念。