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ハンバーガーとチーズバーガーを食べたいときもある

読んだ:母親になって後悔してる

オルナ・ドーナト 著
鹿田昌美 訳(2022)

母親になって後悔してる (新潮社): 2022|書誌詳細|国立国会図書館サーチ

 

これは読んでよかった本。今年一番の本になる気がする。ただ、誰彼問わずおすすめできる本ではない。

 

出版社による概要。

もし時間を巻き戻せたら、あなたは再び母になることを選びますか? この質問に「ノー」と答えた23人の女性にインタビューし、女性が母親になることで経験する多様な感情を明らかにする。女性は母親になるべきであり、母親は幸せなものであるという社会常識の中で見過ごされてきた切実な想いに丁寧に寄り添った画期的な書。

オルナ・ドーナト、鹿田昌美/訳 『母親になって後悔してる』 | 新潮社

 

心を動かされなかったくだりがないくらいなのだけれど、特に印象的だったところ。研究参加者の一人が、インタビューの後、研究者宛に補足の手紙に書き送ったこと。

2人の子どもを産んだ後悔について説明するために、手紙を書こうと(と言うより、頭の中の考えを整理)したときに、言葉がいかに痛ましい真実を薄めてしまうかを知りました。でも、言葉以外に気持ちを伝える方法はありません(もちろんありませんよね。それともありますか? ダンスとか?)。言葉は耐え難い犠牲を、可能で耐えられるものに変えてしまいます。

『母親になって後悔してる』p233

 

不妊治療のさなかに歌を詠んだ私も、どうにもつらい気持ちを咀嚼可能な大きさにちぎるために、言葉にしていた(という面がある)。言葉にしなければ、つらさに対処することができない。それはつらさを過小評価することかもしれないが、でも、たとえ踊っていたって人と分かち合うことは(私には)できないし、そうする他なかった。

 

読んでいて、何度も何度も、私の中にインストールされている「母(良い母)」の価値観が「(インタビューを受けた人や、筆者である研究者の発言について)こんなことを考えるなんて許されない」と叫んだ。つまり、……つまり、私が母になった時にもきっと同じ声が、「こんな感情を抱くなんて許されない」と叫んで、私自身の(素直な)声を無視しようと、なかったことにしようとするのだろう(というか、そんな声があることを認めないのだろう)。ぞっとする。妻になっただけで、妻の亡霊と激しい争いをしなければならなかったのに?

 

先に母になった友人たちが、どんな気持ちを抱いているのか知らないけれど、場合によってはこの本が助けになるかもしれない。