単品と単品

ハンバーガーとチーズバーガーを食べたいときもある

心をなぐさむるは歌なり ②つらさから歌を錬成する

これは2021年アドベントカレンダー「提供」第7日目の記事です。

昨日は妊活短歌の話の導入をやりました。つらさを歌にすると自他の役に立つかもしれない、ということね。

今日は、実際に詠んでみての話をします。

つらさを言葉にするということ

短歌から少し話が逸れて。

先日、友人と、『つらいことがあったとき、そのつらさをつぶさに言葉にすることで、つらさが増すのではないか』という話になりました。それは、『つらさを言葉にしない(例えば、ただ「つらい」などと言う)場合は、つらさが深掘りされず、曖昧なままになる』ということと一体の考え方でした。

私は逆の考え方だな、と思いました*1

【追記】
なお、こちらのマイディアフレンド*2も私同様、「つらさを言葉にする派閥」だと思います。ただ、その過程を(おそらく私よりも)つらいと感じるらしく、「言葉にしない人たちは楽なんじゃないか」、という問題提起であったようです*3。私は考えたことのなかった視点で、なるほどなあと思いました。結局、私もマイディアフレンドも、つらさを言語化しない当事者ではないので、実際に、つらさを全く言葉にしない(意図してそうしている)派閥の人のご意見を聞いてみたいところです。
【追記ここまで】

つらさを言葉にしないでいると、そのつらさについて考えることができない。そのつらさはどんなもので、何が原因で、どうしたら対処できるのかも、わからない。つらさを深掘りする最中はつらいかもしれないけれど、言葉にすることで、つらさに対する理解を深め、つらさの正体に近づくことができる。それは、漠然としたつらさをただ抱えているよりも、希望あることだと思う。正体がわかれば対応策を考えられるから。

私の作文におけるつらさへの対応

上記の「つらさを明らかにして、その後の対応を考える」という態度は、私の作文*4でも同様に見られることに、後で気づいた。

「あなたのつらいところはこういうところですね? じゃあこれからどうします?(つらいところをグリグリと踏みながら)」という態度……*5

つらさを歌にする

妊活短歌の話に戻る。

つらいことがあったとき、それを言葉にしておくことで、自分のつらさを知り対応策を考える、というのはわかった*6。それならば、日記にしたためようが*7、小説仕立てにしようが、構わなかったはずである。だけど、なぜか、短歌になった。

なぜだろう。

  • 川野さんの歌の影響(昨日書いた通り)
  • 57577につらさを入れようとすると、散文にしたためようとするときよりもドラスティックな切り分けができる*8
  • 文字数や文体やかなづかいやら、考えることが多く、気が紛れる
  • よい歌ができたと感じられると、それだけで嬉しい*9
  • 歌は暗記可能である。同様のつらさに襲われた時、心から取り出してお守りのように握りしめておくことができる

短歌を作るのは楽しい。楽しいし便利だ。つらいことを分解して言葉を与える営みが「楽しい」ことは、それだけで大きな救いだと思う*10

短歌集を作って

詠んだ歌をまとめて本にして、文フリに出した。最初の一冊を夫に献本した(私の妊活短歌を読んでもらったのはこれが初めてだった*11)り、信頼できる友人たちに読んでもらったりして、さまざまなフィードバックをもらった。それは私にとって良い体験だった。

読んでもらえるだけで嬉しいし、何かを感じてもらえるのも嬉しい。

つらさを言葉にするのをやめない

やっぱり私は、つらいと思うことをなんとか言葉にしておいた方が、私のためだなあと思う。もしかすると、その言葉が、他の誰かの役に立つかもしれないし。立たなくたって、私の役には立つし。

 

アドベントカレンダーへのご意見・ご感想はこちらまで。

*1:あなたはどうでしょうか?

*2:尋常でなく聡明で気配りができ、かつ苛烈、という芸術的なバランスを誇るワンオブザベストフレンド。大好き。

*3:もしもつらさを全く言葉にしない人であったなら、「つらさを言葉にする人は、つらいのではないか」という発想には至らないような気もする。

*4:主に、二次創作小説を書く行為を指す。

*5:つらいとこを踏みつけられてめっちゃつらい、というところからの立ち直りにそのひとの本質が出る、という思想があるっぽい。私は「お前は一体なんなわけ?」という動機で作文をしがちである。なんなわけ、というのを知るために、地雷を踏んでもらってから癒えてもらう、という過程が取られがちになる。人を選ぶ作文ですね。いつもありがとうございます。

*6:関係ないけど、私がタロットカードで3枚引きする時、だいたい「現状」「成り行きの未来」「対応策」で引く(「過去」「現在」「未来」で引く人もいるらしい)。

*7:あるいは、非公開ブログに綴ろうが、

*8:切り刻んで本質だけを取り出さないと、歌の枠に入ってくれない。

*9:つらさ散文を書き切っても、嬉しい、という気持ちにはなりにくい。ややスッキリはするかもしれないが、マイナスをゼロにする程度のものである。

*10:つらさから短歌を錬成しているわけだ(理解、分解、再構築)。

*11:妊活はひとりの問題ではない。私が詠んだ私の歌でも、その反対側には常に夫がいる。だから、事前に、このような内容の本を作りたいのだが頒布してもよいか、と訊いた。その時には一首も読んでなかった夫は即答で「いいよ」と言った。読まなくていいのかと確認したが、いい、とのことだった。私から創作を奪うと大変なことになるとよくわかっている人の態度である。しかし悪口を言い立てられているかもしれなかったのに、えらかったなあ。なお悪口は書いてない、つもり。