単品と単品

ハンバーガーとチーズバーガーを食べたいときもある

「感情と意思」の「意思」の方 ②認知科学分野の文献を読む

これは2020年アドベントカレンダー「感情と意思」第4日目の記事です。

 

昨日は「意思」と「意志」の使い分けについて調べました。その結果、このアドベントカレンダーは「感情と意思」でよかろう、ということにしました。

pinnni.hatenablog.com

 

感情と意思について、文献をあたる

「意思」って何じゃろうと考えたい。しかし「意思」については本などを調べていない。*1

調べないのも何なので、安心と信頼のJ-STAGEに行きました。

www.jstage.jst.go.jp

「科学技術情報発信・流通総合システム」(J-STAGE)は、国立研究開発法人科学技術振興機構 (JST) が運営する電子ジャーナルプラットフォームです。J-STAGEは、日本から発表される科学技術(人文科学・社会科学を含む)情報の迅速な流通と国際情報発信力の強化、オープンアクセスの推進を目指し、学協会や研究機関等における科学技術刊行物の発行を支援しています。
現在J-STAGEでは、国内の1,500を超える発行機関が、3,000誌以上のジャーナルや会議録等の刊行物を、低コストかつスピーディーに公開しています。

引用元:J-STAGEの概要

 

国内の論文が(たいがい)無料で読める便利なサイトです。

 

これはメタアナリシスなどではないので検索条件とかちゃんと書きませんが*2、だいたいこんな感じだったと思う:

  • キーワード:感情 and 意思
  • 資料種別:ジャーナル、会議論文・要旨集、解説誌・一般情報誌
  • 言語:日本語
  • 発行年:2010年~

分野も指定した気がするが忘れてしまった。*3

 

文献の感想

※これは学術的な記事ではないし、科学的な正確性は保証されません。当該分野の既存知識も不足しているので誤読の可能性も十分にあります。

という条件の上で、斜め読みして印象に残った部分や感想を書きます。 

特集「判断と意思決定の認知科学」編集にあたって

都築 誉史松田 憲, 特集「判断と意思決定の認知科学」編集にあたって認知科学, 2015, 22 巻, 3 号, p. 308-314, 公開日 2016/03/01, Online ISSN 1881-5995, Print ISSN 1341-7924https://doi.org/10.11225/jcss.22.308https://www.jstage.jst.go.jp/article/jcss/22/3/22_308/_article/-char/ja

 

人間の意思決定のプロセスは二重構造になっている(片方は速くて自動的、片方は遅いが抽象的な思考ができる)というのが面白かった。知能の違いは後者の働きで決まるという主張もあるらしい(反論もある)。

 

あと、投稿された論文の紹介として、昨日目を通したこちらの論文 

どうか名前で判断しないでください に言及があった。名前のもつ特徴が好感度に影響を与えている、という調査結果。同じ母音が多く使われていると好感度が下がり(たぶん、発音しにくいから)、特定言語に頻出の音や音の並びが使われていると好感度が上がる、ということらしい(どうか私の記述で判断しないでください(元論文を読んでね!))。

 

「5. 今後の展望」の最後に書いてあったこちらの段落がとても好きだ。研究者の信念と熱意大好き。

判断と意思決定に関する知見や理論を学ぶことによって,日常的な選択を見つめ直し,より良い判断を行うことが可能になる.意思決定研究は,さらに幸福な人生と社会の実現に貢献できるはずである.意思決定研究が,国の内外を問わず,ますます盛んになることを期待してやまない.

 

これはもう本稿とは全然関係ない感想なんですけど、特集号のためにテーマを定めて会員から広く論文を募って一冊の本にするの、アンソロジーじゃんと思って嬉しくなっちゃった*4

 

感情的意思決定を支える脳と身体の機能的関連

大平 英樹, 感情的意思決定を支える脳と身体の機能的関連, 心理学評論, 2014, 57 巻, 1 号, p. 98-123, 公開日 2018/07/13, Online ISSN 2433-4650, Print ISSN 0386-1058https://doi.org/10.24602/sjpr.57.1_98https://www.jstage.jst.go.jp/article/sjpr/57/1/57_98/_article/-char/ja

 

『感情的意思決定』なるめっちゃ気になる言葉が出てきた!! その概念を唱えたのはまた別の論文らしいので深入りしないけど、そういう時の意思決定に影響するのは(この間のアドベントカレンダーにも書いた)「情動」ではなくむしろ「気分」の方らしい。へえ(直感には合う)。

 

陸上は海中よりも場所による環境の違いが激しいため、爬虫類、哺乳類、鳥類には、判断を助けるために「快─不快」という評価軸が生じたというのも初めて読んだ。へえ!

この快−不快の次元は,全く異なる領域の選択肢に関する意思決定に役立つ。低温を嫌うトカゲが,温度の低い場所に餌を取りに行くためには,そこにいくつ餌があればよいかを観察した研究が行われた(Cabanac, 1999)。その結果,温度と採集行動を誘発しうる餌の個数は,線形的な負の相関関係にあった。これは,温度と餌という全く異なる対象を快−不快の度合いという尺度,いわば脳内の共通貨幣 (commoncurrency) に変換して比較することで,一元的な意思決定を可能にしていることを示唆している17)。こうした現象は,羊膜類ではないカエルには見られない (Paradis & Cabanac,2004)。

※羊膜類:爬虫類、哺乳類、鳥類をまとめて言う語

 

p116の「(2) 意思決定の動因としての身体的反応」あたりから特に興味深い(読んじゃって記事が書けない……)。えーと、何かを判断する際に、選択肢が全く同じに見えたり、もしくは判断材料が不足していたりして判断に迷う際に、感情を元にして無理矢理にでも(理性的には判断がつかない状態でも)判断をしてしまうことにより、その結果を見て知見を貯め、いずれ正しい判断が下せるようになっていく、みたいな話だと思う。それはとてもわかるような気がする。そういう場合、たとえば「推し会いたさで気が狂って飛行機に飛び乗る」みたいな経験をして、「今後こういう時飛行機に飛び乗るのはどうか?」というのはそれをやってから判断しやすくなる、ということかなと思うと理解しやすい*5

 

「(3) 意思決定の自己主体感」、私がピアノについて「押すと音が出るの面白すぎてずるい」と憤慨するのを思い出して面白かった。私が何かをしたことによって何かが起きた、と感じること。

 

感情と意思決定:構成主義的感情論の視座から

余語 真夫, 感情と意思決定:構成主義的感情論の視座から, 心理学評論, 2014, 57 巻, 1 号, p. 124-139, 公開日 2018/07/13, Online ISSN 2433-4650, Print ISSN 0386-1058https://doi.org/10.24602/sjpr.57.1_124https://www.jstage.jst.go.jp/article/sjpr/57/1/57_124/_article/-char/ja

 

こちらは副題に、「──大平論文へのコメント──」と書かれている。大平論文というのは、さっき読んでいた「感情的意思決定を支える脳と身体の機能的関連」のこと*6

 

引用はしませんがp136「6. むすび」序盤がとてもよい*7

 

感情と意思決定は異なるものではなく、相互に関連しあっている。ならば、感情がでかい人、意思決定を不適切に下しがちにならないだろうか。自分が心配になってきた。しかししばしば「気が狂って○○した」という構文でものを言いがちな者が今更何を言うのかという気もする。

 

あと行動経済学分野の論文2本探してあったけど、体力が限界なので今日はここまで。面白かったー。

*1:昨年度は「感情」について本を読んだのだが……。

*2:というか、昨日やったことだけどもう忘れた。

*3:なお、私の慣れている分野は医学・保健衛生系である。ライフ系とか、心理学系(特に統計的手法を用いるもの)の論文であればまだ読みやすいが、人文・社会科学系の論文はまだお作法に慣れておらず、読むのが得意でない。文豪とアルケミストをプレイするにあたってそのへんの分野を歩き回るスキルも身につけたいなあと思い始めたところです。……横道に逸れたが、このような理由から、「感情」と「意思」に関連する認知科学分野の論文を多めに拾うことになった。

*4:査読付きアンソロジーだ。

*5:すぐ推しに気が狂う話をする。

*6:アンサーソングだ! ……アンサーペーパーか?

*7:完全にアンサーペーパーだ……