これは「人間をケアする」アドベントカレンダー第20日目の記事です。
前回は、医療と語りの話をしようとして、エビデンスについて話していたら終わってしまいました。
今回こそ、ナラティブの話をします。
数字に現れないものたち
現在の医療では、エビデンス、すなわち科学的根拠が重視されています。数字が効果を示すという価値観です。この潮流は1990年代に始まりました。
エビデンスとなる数字が信頼されるのは、多くの患者さんの協力によって導き出されたものだからです。一人がたまたま治ったわけではない。治療期間中に食べていたニンニクが効いたわけでもない。その治療に効果があったから、多くの人が良くなったのだ。そんな説明ができるように、注意深く設計された実験が、エビデンスを生み出しています。
数字は誰にとっても平等です。したがって、取り入れる側(医療者やその関係者)にとって、採用する理由として明快です。ですが、数字が誰にとっても平等であるがゆえに、患者さんに困難をもたらすことがあります。
「私はどうしたらいいのか?」と。
個別の事情
患者さんは一人ずつ違います。
数字の上では「多くの人に効く」とされている治療が、本当に自分に効くのかは、誰にもわかりません。どんな副作用が起きるのか、来年はどんな風に過ごせるのか、わかりません。
わからなくても、治療をするかしないか、どのようにするか、選ばなければなりません。大抵の場合、治療に関する決断にはタイムリミットがあるものですから。
「納得」という味方
さて、患者さんにとって、治療の体験を良いものにするために大事なことは何でしょうか?*1
状態が改善すること。医師が信頼できること。治療の過程に痛みが少ないこと。家族に迷惑や心配をかけないこと……、考えられる要素はたくさんありますね。
その中で、「納得していること」もまた、要素の一つとして挙げられます。納得して治療を受けることが、治療の満足度に関係しているらしいのです。*2
では、どうしたら納得することができるでしょうか?
理解すること
まずは、わからないことをなくすことです。自分で調べたり、周囲に聞いたりすることもできるでしょう。その際、ただ多くの情報を集めるだけではなく、読み書きした情報が正しいのかどうかを判断する力も大事なのですが……、それはまたの機会に譲ります。*3
診療の場においては、もちろん、医師に尋ねることが最も重要と考えられます。医師の説明を理解すれば、納得に近づくでしょう。
納得をもたらすコミュニケーション
あわわ、また好きな分野に来てしまった。書きすぎないようにします。
医師の説明を理解するためには、大概の場合、質問をしなければなりません。医師の説明が一回で全部わかることは、当然のことではありません。それに、医師の説明を全て理解したとしても、「自分にとっての問題」はそれぞれ違います。気になる点は出てくることでしょう。
医師に質問をするために必要なことも色々あるのですが、一つは「医師を信頼していること」が挙げられます。「こんな質問をしたらバカだと思われないだろうか」といった不安を抱いていては質問することが難しくなります。医師は自分の話を聞いてくれる、そういう信頼が要るのです。
語りに耳を傾ける
「傾聴により相互に信頼が高まる」と、以前の記事に書きました。
そう、話をすることは、理解を促進するだけでなく、信頼を深めて、さらなる話を誘い出す力があるのです。
数字では解決できない、個別の納得と成果を得るために着目されてきたのが、まさにこの「語り」なのです。
時間切れです!
また続きを書きましょう。今後ともどうぞよしなに。
*1:ここでいう「良いもの」とは、いわゆる満足度を指しているとしましょう。
*2:切れ味の悪い説明ですね。文献は見つけたのですが、許可のない引用を禁ずるとありましたので、リンクだけ貼っておきます。p72の回帰分析をご覧ください。http://www.jpma.or.jp/opir/en/issue/en_rs_029/paper_29.pdf