これは「人間をケアする」アドベントカレンダー第19日目の記事です。
しばらく間が空きましたが、先日は、看護における傾聴について書いていました。
今回は、医療と語りについて書きます。
人を守る「数字」
エビデンスを重視する
エビデンスは「科学的根拠」と訳されます。
「効くという根拠がある治療」が推奨される価値観です。*2
医療における「科学的根拠」
医療でエビデンスとされるのは何でしょうか?
権威ある医師が「これが効く」と言うこと?
隣人が「これで治った」と言っていたら?
テレビで「最近、この治療法が注目されています」と放送されていたら?
……医療におけるエビデンスには、さまざまなレベルがあります。専門家の一意見にとどまるものから、一件あるいは数件の「効いた」という報告のあるもの、多くの患者さんで効果が確かめられたもの、より厳密な実験によって効果ありと判断されたもの……。
「エビデンスがある」と言っても、どの程度信頼できるエビデンスなのかは、見極めなければならないのです。*3
論文に書かれたエビデンスについて
医学的に意味があると考えられるエビデンスの多くは、論文の形をとっています。論文は、その内容の専門分野の雑誌に掲載され、販売やウェブからのアクセスにより、世に公開されています。
論文は、出版公開される前に、専門家によって査読を受けることがほとんどです。査読とは、投稿された論文に誤りがないか、その雑誌に掲載してもよいかを判断することです。論文の著者は、査読者から疑問点や修正点を指摘されれば、雑誌に掲載が認められるまで、確認と修正を繰り返します。*4
このように論文は、専門家のチェックを経てから世に出ているので、情報の信頼性が高いのです。*5
エビデンスの種類
論文に掲載されるようなエビデンスであれば、何でも同様に信頼できるのでしょうか?
いいえ、エビデンスが確かめられた方法によって、その信頼性には濃淡があります。
先程も書いたように、多くの患者さんを対象に行われた実験で実証されたもの、数件の報告があるだけのもの、専門家の意見があるものと、様々なエビデンスがあります。信頼できるエビデンスの作り方にはお作法があるので、論文の方法を読めばだいたい検討が付きます。*6
エビデンスを重視する医療がもたらすもの
エビデンスを重視すると、「多くの患者さんに効くとわかっている治療」が推奨されるようになります。
ここで大切なのは、ほとんどの場合、「多くの」患者さんであって「すべての」患者さんではないということです。
つまりエビデンスに基づいた医療では、「あなたの病気に使えるこの治療法は、5年以内に死亡する確率が90%から75%になることがわかっています」などといった情報が患者さんにもたらされます。多くの患者さんにより実施された、信頼できる方法での試験結果から。
それで?
それで、患者さんはどうしたらよいでしょうか?
というのが、浮かんでくる疑問です。ええと、途中で書いておきますが、この記事はエビデンスを否定したいわけではありません。念のため。
さて。
「何人中何人が治る」という情報は大切です。判断の拠り所になるでしょう。
それでも、自分が患者さんだったら、こう思うかもしれません。
「それで、私はどうなるの?」
エビデンスに基づく医療の限界
残念ながら、その問いに答える方法を、今の医療は持ちません。エビデンスに基づいた方法だけではなく、あらゆる方法が持っていません。*7
では、医療者と患者さんは、見知らぬ誰かたちにより築かれた数字を眺めて、これからの治療を、人生を選ぶのみなのでしょうか?*8
次回に続く!
……書き終わりませんでしたね。
次回、ナラティブに基づく医療の話をする予定です。
*1:実は、エビデンスに基づいた医療(Evidence based medicine, EBMと略されます)が重視され始めたのは1990年代初頭とのことです。割と最近です。
*2:治療だけでなく、検査方法や予防方法等も、根拠に基づいて推奨されます。
*3:ここでは、専門家の一意見よりも、多くの患者さんに対して行われた厳密な実験の方を、より信頼できるエビデンスとする価値観でお話をしています。
*4:それでも論文が掲載を認められないこともありますが……。
*5:掲載される雑誌により、その信頼性は様々ではあります。雑誌の読者層や査読者の質も色々ですしね。
*6:もちろん、細かいやり方によって信頼度は異なります。慎重に。
*7:と、私は理解しています。