これは「人間をケアする」アドベントカレンダー第16日目の記事です。 *1
前回は、看護における「話を聞く」行為について書き始めました。
今回は、看護領域での傾聴について書きます。
看護と傾聴
看護の分野における傾聴とは、どんなものでしょうか?
この文献では、看護における傾聴の概念を、複数の論文から調べてまとめられています。*2
看護における傾聴の概念を、傾聴の属性、傾聴の先行要件、傾聴の帰結という観点から調べられ、概念モデル図が書かれています。図は論文でご覧いただくとして、重要と思われる説明部分を引用します。*3
以下に出てくる引用書体は、上記文献の結果部分からの引用です。
傾聴のはじまり
傾聴は、患者が抱えているストレスを看護師に伝え、看護師はその患者に傾聴が必要な状況にあると判断するところから始まる。また、看護師が傾聴するために必要なスキルを習得していなければ成立しない。
看護師は、患者さんに傾聴が必要かどうかを判断するんですね。誰にでも傾聴をするわけではありません。
傾聴の内容
これらの要件が整い、看護師が自身の感情を自覚したうえで患者に共感し、肯定的関心を持ち受容することが傾聴の内容であり、評価を加えずに患者の近くで話に耳を傾け、同調することで可能となる。傾聴は、 コミュニケーションを構成する要素のひとつであり、ケアの基本となる技術として位置付けられている。
傾聴では、話し手の言葉を評価したり批判したりしないと、以前の記事に書きました。看護での傾聴も同じですね。
患者さんのそばにいることそのものも、傾聴の一部として捉えられていることがあるようです。
それと、これは結構大事だと思うのですが、傾聴する看護師は自分自身の感情に自覚的であることが必要です。患者さんの感情にむやみに同調するのは危ないのです。これは論文中でも、後で言及されています。
傾聴の結果
傾聴の結果として、患者と看護師の間に信頼関係が構築されることにより、患者は精神面の安定が図られ自分自身を振り返ることができ、感情を言語化することにつながる。そして、最終的に問題解決に向けた行動へと至る。
傾聴がうまくいくと、話を真摯に聞いてくれたことから、患者さんから看護師への信頼が高まります。
また、話すことで頭の中が整理されます(傾聴では聞き手が話の腰を折ったり、自分の意見を述べたりすることはないので)。これは患者さんが自分の思いを表出する助けになります。というのも、物語について書いた記事にも書いたように、出来事の繋がりが了解されると、それに対して(初めて)感情が生まれることができます。単発の「語り」が繋がりあい、一続きに了解可能な「物語」になれば、物語を読み書きして、自分の判断や感情を現せるようになります。*4
物語をベースに自分の心と向き合うところから、「自分はこれからどうすべきか?」を考えて、決めることができるのだと思います。
看護師も患者との信頼関係により、患者への理解が深まることで必要なケアを提供することが可能になり、そのような経験は看護師としてのアイデンティティの強化につながっていく(小代,1989)。
看護師の側でも、患者さんが話してくれたことから、患者さんへの信頼が高まります。患者さんが話した考えや気持ちから、真のニーズや、受け入れられるケアをより的確にアセスメントし、計画を立てられます。
そのようにして提供されるケアは、実際に効果があるものです。患者さんのニーズに合っていますし、納得して受けられます。継続することも比較的容易でしょう。
看護師は、傾聴からケアを改善することで得た良い結果から、自信をもらうことができます。
傾聴の注意点
しかし一方では、患者の辛さや苦しさを傾聴し受け止めることで、看護師が巻き込まれる危険性があることが指摘されている。
ここにある「巻き込まれる」は、患者さんの感情に「当てられる」とか、過度に影響されてしまうことを指しています。患者さんと一緒に、苦しく辛い気持ちになってしまうんですね。
自分の気持ちは自分の気持ちとして、しっかりもっておかなければなりません。
巻き込まれると、その後のケアの提供が難しくなってしまうこともあるでしょう。また、患者さんがその後もその看護師に話したがり、看護師がより疲弊してしまうことも考えられます。
傾聴は誰にでも適用できるわけではなく、傾聴に効果がありそうな患者さんに行うことが大切です。また、看護師が巻き込まれそうな場合は、他の看護師に代わってもらうこともありうるでしょう。
今回はここまでにします。
語りによって心が整理されること、互いに信頼関係が生まれること、より良いケアができて互いに喜べること、私はその流れがとても好きでした。*5ついあれこれ書いてしまいますね。
次回は看護とナラティブの話をする予定です。
*1:1日飛ばしてしまったので、日付とカウントがずれています。これでいいのだろうか。
*2:長尾(2013), 「看護における 「傾聴」の概念分析」, 『日本ヒューマンケア科学会誌』6(1), 1-10:https://auhw.repo.nii.ac.jp/index.php?action=repository_action_common_download&item_id=1504&item_no=1&attribute_id=22&file_no=1&page_id=13&block_id=42
*3:論文中の引用注を残してありますが、本記事内には引用の内容は記載していません。
*4:この辺はただの自論です。ゆるふわ記事ですね。
*5:上手かどうかは別にして!