単品と単品

ハンバーガーとチーズバーガーを食べたいときもある

あなたに耳を傾ける その3

これは「人間をケアする」アドベントカレンダー第15日目の記事です。

 

前回は、物語の話をしていました。物語には出来事の繋がりがあります。聞く人に「理解できる」という安心を与え、判断を許し、感情を語ることを可能にさせます。

今回は、看護と傾聴とナラティブベースドアプローチの話をしたいと思います。

 

看護における「語り」

病棟の看護師

傾聴の技術はカウンセリングやビジネスだけではなく、看護の分野でも発揮されます。

入院、したことはありますか? 入院すると、外来にかかる時と違い、医師とばかり話すわけではありません。どちらかというと看護師の方が関わる機会が多いでしょう。朝晩の検温や、配膳や下膳、明日の検査の説明からシャワーの使い方まで。セルフケアが難しければ、お体拭きや歯磨き、オムツ交換などなども。

さてそんなわけで、患者さんは、看護師とお話しする機会が増えます。食事の味、面会に来る家族のこと、壁の外で移り変わる季節のこと、もちろん体調のこと。

看護師の観察

看護師は観察することが仕事の一つです。

医師は四六時中患者さんと一緒にいるわけではありません。看護師の方が患者さんと接する機会が多くあります。患者さんは入院中に、病状が悪化したり改善したり、新しい不調が出たりと様々に変化します。対応が遅くなれば、患者さんの体調を悪化させてしまったり、逆に不要な処置や投薬を続けてしまうことに繋がります。ですから、変化を早期にキャッチしなければならないのです。

看護師は、患者さんの体調の変化をキャッチすべく、患者さんをよく観察しています。*1

看護師の観察には、目で見る観察と、話を聞く観察があります。*2

看護師による客観的観察

目で見る観察には大量のポイントがあります。

体温、血圧、脈拍、食事がどのくらい食べられたか、排泄は順調か、採血やレントゲンの結果はどうか、薬は正しく飲めているか、点滴漏れはないか*3、顔色はどうか、活気はあるか……。

セオリー通りの観察項目を外さないのはもちろんですが、ベテランになると、言葉にできない「何かが変」という直感がかなり当たるとも聞きます。*4

看護師による主観的観察

小見出しがわかりにくいですが、患者さんの「発言」を観察することです。*5

看護師が記録したり考慮したりすべき患者さんの発言には、色々あります。

  • 体調
  • メンタル
  • 指導内容の理解や反応
  • これまでの生活や希望
  • 今後の生活や希望
  • 本人の興味、趣味
  • 家族のこと

※上記はあくまで一例です。

患者さんの発言を聞くことで、看護師が把握・予想・期待していることと、患者さんが思っている/発言することの違いがわかります。*6

たとえば:

  • よく眠れたような顔色だが、「全然眠れなかった」と話す
  • セルフトレーニングの手順を伝えたが、「ええと、なんだっけ」と話し、復唱できない

主観的観察で得られるのはら看護師の客観的観察と食い違う発言だけではありません。

患者さんは、看護師がまだ知らないことを話す場合があります。新しくできていた傷について「昨日部屋の段差で転んだ」とか、内服されていない薬について「この薬を飲むと腕が痒くなるんだ。だから嫌なんだ」とか。

主観的観察における傾聴

上記で見てきたように、主観的な情報は多くの情報をもたらしてくれます。これらの情報は、アセスメントやプラン作成・評価に重要です。

それに、患者さんの話を聞くことは、情報収集だけが効果ではありません。

そう、傾聴の技術を用いれば、患者さんとの信頼関係の構築に繋がるはずです。

 

 

というわけで、今回はここまでです。次回もよろしくお願いします。

*1:もちろん、医療現場において患者さんと関わっているのは医師と看護師だけではありません。ですが今回は看護師に着目して書きます。

*2:看護師がカルテを書くとき、よく「SOAP」という記法が用いられます。これはSubjective(患者の発言)、Objective(看護師の観察)、Assessment(上記二要素から考えられる患者さんの現在の状態、その原因、今後の見通しなど)、Plan(今後の看護計画)です。……なんか、タロット占いでも似たようなことをやりますね。というのは、相手の言動を見つつ、現在、過去、未来を踏まえて、今後取るべき行動を考えるところが。占いとの違いはエビデンスのありようかなという感じがします。

*3:点滴の針、といっても大概はプラスチックのへにゃへにゃしたもので金属の針ではないのですが、そんな点滴の針が血管から出てしまうと、薬液が血管に入らず皮膚組織に漏れてしまいます

*4:「看護師の直感は実際に急変の予知に繋がる」というエビデンスがあると聞いたことがあるのですが、文献を見つけられませんでした。少し違いますが、これ:杉本ら(2005),「異常を察知した看護師の臨床判断の分析」,『北関東医学会誌』55,123-131. には、実際に急変を察知したのか看護師がどんな時に「何かおかしい」と感じたのかが書かれています。興味深いです。

*5:「患者さんの」主観ということですね。

*6:思ったことを思ったままには言わない場合もあるので、あえて「思っている」と「発言する」を分けています。あるいは、適切な言い表し方を知らないために、少し外れた言い回しを使うことになり、聞き手には話し手が思っていることと言っていることが異なるように見える場合もあります。