これは「人間をケアする」アドベントカレンダー第10日目の記事です。
このところ、「自分の不機嫌のケア」について書いています。
その1は不機嫌状態について、その2は不機嫌の原因のスクリーニングについて、番外編はアンケート結果。
今回は、「あさつはね」スクリーニング*1では原因を特定できない不機嫌への対処について書きます。*2
Why you are 不機嫌
不機嫌の原因を探して
私は、「あさつはね」スクリーニングで不機嫌の理由がわからなかった場合、自分を不機嫌にさせる出来事が何だったのかを考えてきました。
私はその時、不機嫌な27歳女性の相手をしながら考え事をしなければなりません*3。もちろん、不機嫌な27歳女性を警戒して宥めながら、不機嫌の理由を考えるのはしんどいことです。
ですが、原因がわかれば不機嫌を直せるかもしれません。雨漏りに気付いたとき、屋根の塞ぐべき穴を探しに行こうとするように。
というわけで、私は27歳女性と会話を試みます。
私「今日はどうしたの?」
27歳女性「……」
「悲しいことでもあった?」
「何でもないし」
「そっか〜〜」
これはつらい時間です。不機嫌な人間とは、なかなかまともな会話が成り立ちません。でもがんばりましょう。不機嫌の原因を求めて。
「修復可能」な不機嫌
私が27歳女性にあれこれと話しかけるうち、そういえば満員電車で足を踏まれたな……と思い出すとしましょう。それで27歳女性は機嫌を損ねたのかもしれません! 私は「そうか、かわいそうだったね、痛かったね。その靴はお気に入りなのにね」と労わります。27歳女性はムッと黙り込んでいますが、徐々に「そう、悲しかった」と返してくれるようになるかもしれません。
あるいは、理不尽な罵りメールが来たな……と思い当たるかもしれません。私は「あれは堪えるね。でも、あなたはよくやったよ」と慰めるでしょう。27歳女性は我が意を得たりと「そう、私は悪くないもん」と言うかもしれません。
さて、二つの例を見てみましたが、共通していることがあります。それは「原因を探索しても、起こってしまったことを、なかったことにはできない」ということです。
ひいては「不機嫌になってしまったことを、綺麗に消し去ることにはできない」……?
原因探しは愚策?
ところであなたは、「女の怒りはポイントカード制」であると、聞いたことはあるでしょうか。*4
「嫌なことや割り切れないことがあった時に、女は毎回は怒らない。代わりに、心のポイントカードにスタンプが貯まる。最後の一つのスタンプが押されたとき、そのカードは怒りの感情と交換される。それはいくつもの怒り要素をまとめて想起するために、強烈な感情になりえる」
……というものです。*5
怒りと不機嫌は同じではありませんが、イライラして冷静でいられないことは似ています。怒りを不機嫌に読み替えると、「不機嫌になる直前の出来事は、不機嫌を引き起こした要因のごく一部でしかない」と考えられます。
豪雨の中、穴だらけの屋根のたった一つの穴を塞いでみても、足元の水はもう引きません。溜まる一方です。
不機嫌の原因が過去に遡るのであれば、原因を探索して解決することは無理です。過ぎてしまったことは戻りませんし、そもそも思い出すこともできない出来事も含まれているかもしれません。
となると、不機嫌の原因を探すよりも、もっと良いアプローチがあるのではないでしょうか。
DO NOT ASK WHY
27歳女性に、「一体どうして機嫌が悪いのか」と問いかけるべきではない──?
私は先日、何かの弾みで27歳女性が出てきた時に、別のアプローチを試しました。朗らかに挨拶してみたのです。*6
私「お! 久しぶりじゃん! 元気にしてた?」
27歳女性「!? げ、元気じゃないし!?」
「そっか〜そりゃそうか〜」
まあ、27歳女性は不機嫌なので、元気ではないでしょうね。
「何しようか?」
「は?」
「何する? 一緒に散歩する? ケーキ食べる?」
「! ガトーショコラ食べたい!」
「いいっすね!」
私はガトーショコラを買いに行きました。つまり、私と27歳女性は、一緒に買い物に行ったのです。そしてガトーショコラを買って、食べました。
これは私にとって革命的なことでした。
回想:ひとりデート
私はこれまで、27歳女性(当時は27歳でないときもありましたが)の機嫌を取ろうとして、私が「ひとりデート」と呼ぶ行動を取ることがありました。
これは、私が27歳女性の機嫌を取るために使う方法です。本屋やケーキ屋さん、お洋服屋さんに連れて行き、好きに過ごしていいよ、好きなものを買ったり食べたりしていいよと宣言することです。
「ひとりデート」をすると、はじめは仏頂面だった27歳女性はだんだん機嫌がよくなり、お出かけを楽しんだ後、しばらくの後に消えていきます。それで、私は自分が不機嫌になってしまった時には、苦労して私を元気づけて、27歳女性との「ひとりデート」をするように心がけていました。
ただ、これは私が27歳女性を引っ張って歩ける程度に回復してからでないと使えない方法です。ですから、毎回実践できていたわけではありません。
ふたりデートの試み
さて、改めて書いてみると、私の「ひとりデート」は何かに似ています。
このアドベントカレンダーで紹介した、キュアの考え方です。(https://pinnni.hatenablog.com/entry/2018/12/03/224033参照。)
私がこれまでにとってきた、27歳女性を何とかしようとする態度は、27歳女性を「治すべきもの」として捉え、一方的に矯正しようとするものでした。一緒に出かけているようでいて、実際は勝手に連れ出し、甘やかして、コントロールしようとするものでした。
先日試してみた「朗らかに挨拶する」から始めるアプローチは、そうではありません。27歳女性を否定したり、コントロールしようとしたりしません。私がそれほど元気でなくても使える方法です。それでいて、私も27歳女性も、ギスギスした雰囲気を早期に振り払い、二人とも楽しく過ごすことができます。
私をケアする
機嫌の悪い自分を否定せず、会えたことを喜び、ただ共に過ごすこと。
先導して消し去ろうとしないで、ふたりがちょっと楽しくなることを、一緒に探すこと。
これはまさにケアではないでしょうか。私が私をケアすることで、より早く、より楽しく、回復することができるのです。
初めて「ひとりデート」をしてから早数年、ここにたどり着くまでに、随分と長くかかってしまいました。
やっとひとりデートの話ができました。楽しかったです。お付きあい、ありがとうございます。
次回の話は未定です。
*1:自分が理由もなく突然不機嫌になってしまったと思われる際に、生理的な原因を除外するためのチェックリスト。5つの要素「暑い」「寒い」「疲れた」「腹が減った」「眠たい」の頭文字を取ったもの。赤ちゃんの泣く理由を参考に筆者が作成。
*2:書きながら考えている部分があり、ややとっちらかっているかもしれません。
*3:斜体の私は普段の人格の私、斜体の27歳女性は突然不機嫌になり手に余るようになった私を表します。
*4:「女」と一括りに言うのは気が咎めるのですが。この振る舞いの様式は、おそらく女性の脳の器質(いわゆる遺伝要因、たとえば黒川伊保子「キレる女懲りない男」などに記載があったと思います)と、女性の育つ社会的状況や規範(いわゆる環境要因、たとえば「怒り」がポイントカード制なのは日本人女性だけ? | 井の外かわずなどには環境要因にあたる言及があります。)の両方に影響されていると思われます。
*5:たとえば発狂MAX〜女の怒りのデス・ポイントカード〜|1mmとかに言及あり。
*6:これは先日読んだ本、日本臨床心理学会「幻聴の世界 ヒアリング・ヴォイシズ」に影響を受けたものです。この本には、幻聴を「治すべきもの」と捉えず、その声を聞くことに注力する活動hearing voicesについて書かれていました。幻聴を「幻聴さん」と呼び、自分から「今日はもう遅いので、もう寝ましょう」「教えてくれてありがとう」などと話しかけることで、幻聴に困らされることが減った、などの報告がなされています。